tomo1961’s blog

-55を過ぎてギターを始めた男が早期退職した後の顛末'ing-

「弦を緩めるか論争」について [No.2021-H002]

 

私はギターを初めて4年半にもなるのに、ギタープレイはどうしようもないほど下手クソだ。

 

未だに1曲として通して弾くことが出来ない。

 

だからギターの事など語る資格はないのかもしれないが、しかしそれでも、元技術者の立場で語る分にはいいだろう、と思っていて、先日も修理の記事を書かせていただいた。

 

それに、つい先日知ったことなのだが、Brian mayのRed Specialを造ることを許されている伊集院香崇尊さんも、ギタープレイはそれほど上手ではないと聞いた。

 

あ、自分と比べること自体間違っているとは思うけど。

 

で今回は、技術者だった人から見るととても奇異な「弦を緩めるか論争」について語ってみる。

f:id:tomo1961:20210422110648j:plain

 

「弦を緩めるか論争」とは何かというと、ギターの弦を練習を終えた都度緩めておくか否か?どちらが良いのか?という論争のことだ。

 

緩めたほうが良いという主張は、その理由として、ネックなど各部に力がかかり続けているとギターが傷んでしまう。という。

 

緩めなくてもいいよという主張は、その理由として、大して変わんないよ、経験上問題にはならないよ。という。

 

さてでは回答です。

 

出来る限り弦を緩めたり締めたりを繰り返さないほうが良い、が正解。

 

これは間違いない。

 

さて、以下ギターを一つの機械の系として考え、解説してゆく。

 

一般的な機械を構成している金属材料は、力を加えてゆくと変形し「弾性限度」という所を超えなければ、力を緩めると元の形状、寸法に戻る。

 

但し、樹脂や木材は「クリープ変形」といって「弾性限度」より少ない一定の力=「静荷重」でも、その力がかかり続けると変形したまま元の形状に戻らない、という特性がある。

 

更に厄介なのは、木材の場合は湿度をどの程度含んでいるかによって「クリープ変形」の程度に違いがある。

 

毎回緩めると主張する側は、言ってみればこの「クリープ変形」こそがギターを痛めるのだ、と言っている事と同意だろう。

 

さて、では普通のギターのネックやボディーは「クリープ変形」するのか?と言えば、その答えは ”ほとんどしない” が正解だろう。

 

例えばギターによっては、トップ板のブリッジ付近が膨らんでしまい、弦を緩めても戻らない現象があるが、これは確かに「クリープ変形」と言ってもいだろう。

 

但し、トップ板の膨らみは機種=トップ材の材質と厚さによる違いであり、取り扱いによってバラつくようでも無さそうだ。

 

さらに、ネックがクリープ変形してしまった例は無さそうだし、ネックの多少の曲がりはトラスロッドで調整可能だし、そういう想定の設計になっている。

 

さてでは機械を、その部品を変形させてしまう「荷重」にはどの様な種類があるだろうか?

 

文献により多少の違いがあるが、手元の機械設計の本によると以下のようになっている。

・静荷重:一定の力が加わり続け変化しない

・繰り返し荷重:強弱の力が交互に加わり続ける

・衝撃荷重:瞬間的(衝撃的)に力が加わる

 

機械設計を行う際に強度計算を行うが、最終的な寸法を決めるために、これら荷重の種類によって「安全率」という係数を掛ける。

 

「安全率」(安全係数ともいう)については、以下のリンクから概要を知っておいて欲しい。

安全率 - Wikipedia

 

だから、逆の見方をすれば、機械というものは「安全率」が高く設定されている荷重がかからないように取り扱うのが ”やさしい” 扱い方であり、ダメージもかからないという事になる。

 

手元の文献では、木材への荷重の種類毎の「安全率」は以下のようになっていた。

静荷重:7

繰返し荷重(片振):10

繰返し荷重(両振):15

衝撃荷重:20

 

「静荷重」に比べ「繰返し荷重」は1.4〜2倍以上の荷重を想定していることになる。

 

さて、ギターの場合はどうなるか?

 

弦を緩めて締める時に「繰り返し荷重」が掛かる。「静荷重」はそれ以外の時にどちらにもかかっている。だからここでは「繰返し荷重」が掛かる回数を持って比較とした。

 

練習は毎日するとして、弦交換は1回/3週として計算してみた。

 

毎回緩める:365回の繰り返し荷重

緩めない派:17.4回の繰り返し荷重

 

約21倍の違いになった。

 

ギターを大事にしているつもりの”弦を緩める派”は、緩めない派と比較して約20倍以上もギターを痛めつけていることになる。

 

もちろん、長く弾かない時に弦を緩めるのは、少しでも「クリープ変形」を防止する効果はあるとは思うが、毎日弦を緩めるのは、機械構造的にはかなり機械に厳しい取り扱いと言えるから、”弦を緩める派”の意見は間違いと断言して良いだろう。

 

以上ご理解いただけただろうか? 



=====
今日の一曲
「eutopia」REI

eutopia

eutopia

  • Rei
  • ロック
  • ¥255
  • provided courtesy of iTunes

 

*本ブログに掲載している広告とリンクを除く全ての写真はtomo1961又はその家族が撮影したものです。

-----
私のもう一つのブログ「50歳からの単独行」も、是非御覧ください。
50歳から再度山に登り始めたお話を小説風に書いています。
こちらからどうぞ↓

https://tomo1961.hatenadiary.jp/